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体性感覚の評価とエクササイズ

私たちヒトが何か行動を起こすとき、脳はまず「その行動は安全かどうか」を判断します。安全であれば実際に行動を起こしますが、危険と判断するとその行動を起こさないために意欲を喪失したり、たとえ行動したとしても、その行動やめさせるための防御反応が起こります。


この「安全か?危険か?」の判断に関わる重要な機能の1つが「体性感覚」です。体性感覚が低下した身体部位があると、その部位の感覚を脳はうまく受け取ることができないため、「安心できない=危険」と判断して防御反応が起こり、質の高い動きやパフォーマンスを発揮することが難しくなります。


本記事ではまず、ヒトが何か動作を遂行する際に「安全?危険?」をどう判断しているのか、安全と判断されたらどのように動作が遂行されて、危険と判断されたときはどんな防御反応が発生するのかを、感覚神経と運動神経によって行われる一連のプロセスを解説しながらご紹介します。


その後に、体性感覚の評価方法と改善するためのワークもお伝えします。体性感覚に問題がある部位をどのように見つけることができるのか、そしてそれをどう改善すれば良いのかを知ることで、より質の高い効果的な運動療法や指導が可能になります。


クライアントの慢性的な疲労や疼痛がなかなか改善しない、筋出力や可動域が向上しない、筋緊張がとれない、そんなお悩みがある方は、体性感覚を向上することでそれらの症状が改善する可能性があります。ぜひ参考にしてみてください。


体性感覚とは?


体性感覚とは、皮膚にある受容器によって触覚や圧覚・痛覚・温度覚などを感知する「表在感覚(皮膚感覚)」と、関節・腱・筋肉などにある受容器によって位置覚・運動覚・振動覚・重量覚を感知する「深部感覚」の2種類からなる感覚システムです(1)


この体性感覚がしっかりと働いていない場合、自身が「いま、どんな姿勢・動作をしているか?」を正確に認識することができないため、良い動きを生み出すことは難しくなります。


体性感覚を理解するためには、まず「どのように人間の動作が生成されるのか」を理解する必要があります。私たちが行う「動作」は、感覚神経系と運動神経系の2つの神経システムによって成り立っています。


今いる環境が安全なのか?危険なのか?を認識する「感覚神経系」


動作を生成する上で脳が最も重要視することは「今、自分はどんな場所に存在するのか」「今、自分は安全な状況なのか?危険な状況なのか?」です。


仮に、いま危険な状況に晒されていると脳が判断したり、いまの状況が上手く理解できない場合は、身体を守るために緊張や防御反応が起こるため、良い動作を行うことは難しくなります。


まずは「感覚神経系により自身の状況を理解し、安全だと認識する」ことが良い動作を行う上での前提条件となります。


では、感覚神経系とはどんな仕組みで成り立っているのでしょうか。感覚神経系は3つのシステム「視覚」「前庭覚」「体性感覚」によって構成されます。それぞれのシステムがしっかり働き、正しい情報(インプット)を脳に伝える必要があります。


視覚システムが「空間」の情報を認識することで、自分が今どんな場所で、どういう状況にいるのかが理解できます。前庭覚システムは「頭の位置」を認識すると同時に、その頭が今どの方向に加速しているのかを認識します。そして体性感覚システムは、今の自分の身体はどのような状態にあるのかを認識します。


これら3つの感覚システムがそれぞれ得た情報は中枢神経系に送られ、いま自分はどんな状況なのか?いま自分がいる環境は安全なのか?危険なのか?を判断します。いま自分が安全な状況であると判断されると、運動神経系の活動によって具体的に、どのような動きを行おうかという「動作企画」が始まります。


しかし、いまの状況が危険と判断されると、運動神経系による動作の企画や実行には進まず、危険から逃れて自分の身を守ろうとする「防御反応」が起こります。


危険と判断した際の感覚神経系による「防御反応」


バッティングの様子


「野球ボールが自分の頭に向かって飛んできている」場面を想像してください。視覚システムによって「野球ボールが飛んできている」という状況を認識し、中枢神経系に情報が送られると「これは危険だ!」と判断され、運動神経系による繊細な動作の生成ではなく、反射的に頭を守ったりボールを避けるといった「動作(=防御反応)」が発生します。


ここで例に挙げた「ボールが頭に飛んでくる」という状況では、防御反応として「動作(=頭を守る・ボールを避ける)」が生まれましたが、防御反応は必ずしも動作となって現れるとは限りません。


次に「映画館で3Dメガネを装着している」状態を想像してください。視覚システムからは「前に進んでいる」という情報が得られているのに対し、前庭覚システムからは「頭は加速していません」、体性感覚システムからも「あなたは座っています」という情報が得られています。つまり、3つの感覚システムからの情報が合っていない「ミスマッチ」状態となります。


3つの感覚システムのミスマッチが起こると「今あなたの状況は危険です」と判断され、早くこの危険な状況を脱するために「気分が悪くなる」「頭が痛くなる」といった「症状」を防御反応として生成して、今行っていることをやめさせようとします。その他にも、防御反応として以下のようなものが起こることがあります。



  • 交感神経活動の増加・副交感神経活動の抑制

  • 歯の食いしばり

  • 呼吸量の増加

  • 視覚的緊張の発生

  • 支持基底面の増加

  • 動作可動域の低下

  • 動作制御性の低下

  • 自発的な出力の低下


すなわち、ここまで挙げた身体状態の変化・動作・症状が、あなたのクライアントや選手に現れた場合、もしかしたらその症状やサインは何かに対する防御反応なのかもしれない、という観点を持つことが重要となります。


Threats First, Performance Second(機能改善の前に脅威を減らす)


「痛み(=脅威)」も「パフォーマンス(=機能改善)」も同じ「脳からのアウトプット」のため、痛みのアウトプットが増加すると、その分パフォーマンスのアウトプットは減少してしまいます。脳は必ず「生存のアウトプット」を最優先します。


つまり、今いる環境や自分の状況が「安全ではない」と判断されると、防御反応として痛みや不調、反射的な動作やネガティブな感情などをアウトプットとして出すため、パフォーマンスに使えるアウトプット量が少なくなり、運動をうまく行うことができなくなります。


そのような状態でパフォーマンス向上や機能改善のためのトレーニングを行っても、それに使えるアウトプット量が少ないため、トレーニング効果は小さいものとなってしまいます。


よって、防御反応かもしれないと考えられるアウトプットが見られた場合は、まずその人が、何の脅威から自分の身を守ろうとしているのかを探り、生存のために使われているアウトプットを減らすことで、効果的なパフォーマンス向上のトレーニングを行うことが可能になります。


動作を企画・生成する「運動神経系」


3つの感覚システムからの情報によって「危険がない」と認識され、すべての情報を比較した際にミスマッチがない場合、今の状況は安全であると判断されます。すると次は「今の状況でどのような動作を行うのが適切であるのか?」という動作の企画が前頭葉によって行われます。


前頭葉によって「こんな風に動こう」という動作企画が行われれると、次は大脳基底核や小脳が働き、その動作を実行するために必要な筋収縮パターンを調整して、体が動き、動作が生成されます。


実際に動作が実行されると、自分の環境や状況が変化するため、再び感覚神経系のシステムが働き、今現在は安全なのか?危険なのか?という情報の収集、認識、判断が始まります。


この感覚神経系から運動神経系への一連の流れがループとなって、安全の確保や正しい動作の実行が継続的に遂行されていきます。


適切な動作を実行するために重要な「身体所有感」と「行為主体感」


ピラティス指導の様子


感覚神経系と運動神経系の働きによって常に適切な動作を生成・実行していくためには、「身体所有感(=自己の身体は自分のものであるという感覚)」と「行為主体感(=自己の運動を実現しているのは自分自身であるという感覚)」の2つの感覚を高めることが重要です(2)。この2つの感覚は、単純に筋力を高めたり、関節可動域を広げたりしても得られる感覚ではありません。


視覚、前庭覚、体性感覚の3つの感覚システムが正確な情報を収集し、得られた情報を脳が正確に処理して、運動神経系によって正しい動作企画と動作の調整・実行が行われることで、身体所有感と行為主体感は獲得されていきます。


これら2つの感覚をしっかりと確立することで運動パフォーマンスが効果的に向上していきます(3)。逆に、この2つの感覚がない状態で複雑なトレーニングを行っても、適切な運動が生成されないため、トレーニング効果は薄くなったり、むしろ良くない動きを繰り返し行うことになってしまいます。


つまり、選手やクライアントの感覚神経系と運動神経系の働きについてそれぞれ評価を行い、身体所有感と行為主体感がしっかりと確立されているのかをまず確認する必要があります。複雑なスキルトレーニング等を始める前に、身体所有感と行為主体感を高めていくことで、運動療法がより効果的なものとなっていきます。


体性感覚(表在感覚・深部感覚)の評価法


私たち人間は今いる環境や状況を理解するための情報を「身体外」と「身体内」から得ています。身体外からの情報のインプットは「五感(視覚・嗅覚・聴覚・触覚・味覚)」から得られています。


身体外からのインプットは感知しやすいため、「目が見えなくなった」「耳が聞こえなくなった」「匂いを感じなくなった」などといった問題が発生した際に、すぐに自分で気がつくことができます。


身体内からの情報のインプットは、身体中にある感覚の受容器によって、筋肉・骨・関節・呼吸・消化・心拍・脈・体温といった情報が脳に伝えられます。身体外からのインプットとは違い、例えば「筋収縮の感覚が薄い」「関節の位置がよくわかっていない」といった身体内からのインプットに問題が起きていても、自分では気がつくことができないという場合が多いです。


アスレティックトレーナーや治療家、運動指導者は、身体内からのインプットをしっかりと感じられているのかを評価することで、その人が身体所有感と行為主体感の2つの感覚を持っているのかを確認することができます。


もしインプットに問題があれば、その問題を解決して、正しいインプットを得られるようにしてあげることで、適切な運動が生成できるようになります。体性感覚を評価するためには、表在感覚と深部感覚をそれぞれチェックする必要があります。


表在感覚と深部感覚の評価によって、身体のどの部位の、どのタイプの感覚が機能低下しているのかを知ることができるとともに、どのタイプの刺激を与えると痛みや症状が効果的に改善していくのか、もしくは動きが良くなるのかも判断できるため、その後のワークを効率よく行っていくことができます。


1)表在感覚(皮膚感覚)の評価法①


表在感覚は、下記4つの評価を行って「触覚」がしっかりと認知できているのかを見ていきます。評価を行い、もし異常が見つかった場合は表在感覚を改善するエクササイズやワークを行いましょう。そしてその後再評価を行い、そのワークが効果的であったかどうかを確かめます。


A)触覚定位


触覚定位の方法は以下の通りです。



  1. 評価者は、先端が鈍の棒状ツールを使用して評価対象者の身体のどこかにそっと触れて、すぐに離します。

  2. 「今触った場所と同じ場所を触ってください」と指示します。

  3. 評価対象者は、触られた部位を逆側の人差し指で触れます(もし左手の甲を触れられた場合、評価対象者は右手の人差し指で触れます)。

  4. 評価者が触れた部位と同じ場所を触れることができたかどうかをチェックします。


様々な身体部位で触覚定位を行い、表在感覚が鈍い場所がないかどうかチェックしましょう。


B)二点識別


二点識別は、皮膚に同時に加えられた2つの刺激を、2つであると判断できる最小の距離を測定する、という評価法です。基本的なやり方は以下の通りです。



  1. 評価対象者は目を閉じます。

  2. 評価者はノギスの本尺と副尺を使用して、対象者の身体部位のどこかに2ヶ所同時に刺激を与えます(=ノギスを当てます)。

  3. 評価対象者にしっかりと2ヶ所を刺激された感覚があれば、ノギスの距離を短くしてもう一度行います。もし1ヶ所のみに触れられた感触しかなければ、距離を長くします。

  4. 何度か行い、2つの刺激を2つであると判断できた最小の距離の平均値を出しましょう。


ノギスがない場合は、クリップを伸ばしたものやコンパスなどを利用することもできますが、評価者は2点に同時に、そして均等な圧力が加わるように触れる必要があります。


また、測定の際は二点を触れたり一点のみを触れたりと混在させることで、対象者が当てずっぽうで「二点と感じた」と言っていないかを確認することができます。


二点識別の標準値は以下の通りです(4)



  • 口唇:2〜3mm

  • 指尖:3〜6mm

  • 手掌・足底:15〜20mm

  • 手背・足背:30mm

  • 脛骨面:40mm

  • 背部:40〜50mm


二点識別を測定する環境や個人要因によって、最小距離の数値は大きく変化するため、上記した標準値はあくまで参考程度にご覧ください。


二点識別を行う際は、その数値自体にはこだわらず、左右差があるかどうかや、評価後に改善のワークを行い、ワーク後再評価をして、行ったワークの効果を確かめる、という方法で用いるほうが良いでしょう。


表在感覚(皮膚感覚)の評価法の様子


C)形態識別


形態識別は、異なる形の物体(積み木など)を手で触って、それが丸いのか、四角なのか、凸凹なのか、その形態がわかるかどうかを評価します。


D)材質識別


材質識別は、様々な物体を手で触って、それがプラスチックなのか、鉄なのか、といったように、その材質がわかるかどうかを評価します。


2)表在感覚(皮膚感覚)の評価法②


上記した4つの評価に加えて、以下のような評価も行うことで、評価対象者(=治療・ワークを受ける人)が「どんなアプローチを用いると最も良い反応を引き出すことができるか」を確認することができます。



  • ライトタッチ:身体の部位を軽く触れたり撫でたりする

  • ディーププレッシャー:強く圧をかける

  • 温冷:温かいもの(ホットパックなど)や冷たいもの(アイスパックなど)を当てる

  • セカンドタッチ:本人ではない他人(セラピストなど)が優しく、もしくは強く触れる


これら4つを用いての具体的な評価の流れは以下の通りです。



  1. 痛みがある部位について「あなたの痛みレベルは0〜10のうちどれくらいですか?(=Numerical Rating Scale)」と質問する。

  2. 答えてもらった後、その部位にライトタッチを行う。

  3. その部位の痛みレベルを再び0〜10で表してもらい、変化があったかどうかを確認する。もし変化があった場合は、どれくらい変化したのかも確認する。


同様の流れで、他の3つの方法を用いて痛みレベルの変化量を確認することで、その選手・クライアントはどのアプローチが一番身体に合っているのかを知ることができます。


その選手・クライアントがどのタイプの触覚を一番心地よいと感じるのか、もしくは身体が良い反応を起こすのか、というのは実際に評価してみないとわかりません。


もしライトタッチに一番良い反応を示す場合は、今後の治療やワークでライトタッチを用いることで、効率的に痛みや症状を改善していくことができるはずです。


もしセカンドタッチで良い反応が起こる場合は、自分以外の他人に触れられることで効果が出るタイプということになるため、いわゆる「セルフマッサージ」を行ってもあまり良い効果が期待できない可能性があります。


表在感覚とマッサージ


3)深部感覚の評価法


深部感覚は、下記5つの感覚を評価していきます。


特に「筋伸長感」「筋収縮感」「関節制御」を評価することで、選手やクライアントの体性感覚の劣っている部位や動きを発見することができます。


A)位置覚


位置覚は、評価者が関節を受動で動かして、評価対象者はその関節の角度や方向を答えられるかどうかをチェックします。例えば選手の膝を90度屈曲させて「今、膝の角度はどれくらいですか?」と聞き、「90度です」と答えられるか、という評価です。


他のやり方としては「右肘を130度に曲げてください」と伝えて、実際に選手は閉眼の状態で、右肘を自動で130度くらいに曲げることができるかをチェックしたり、「左膝を右手で撫でてください」と伝えて、患者は閉眼の状態で指定された身体部位を撫でることができるかチェックする、といった方法も位置覚の評価となります。


B)重量覚


重量覚は、閉眼の状態で両手に重りを乗せて、右手と左手でどちらの方が重いのかを答えてもらったり、具体的に右手は◯kg、左手は□kg と当ててもらう、といった方法で評価ができます。


C)筋伸長感


筋伸長感は、ある筋肉が伸ばされた時に、実際にその筋肉が伸ばされている感覚があるかどうかをチェックします。評価者は可能な限り、対象の筋をアイソレートしてストレッチをかける必要があります。


D)筋収縮感


筋収縮感は、筋肉にグッと力をいれてその筋肉を使っている状態の際に、実際に使っているという感覚があるかどうかをチェックします。


筋収縮感を評価する場合は、まず等尺性収縮を利用して感覚をチェックし、もし使っている感覚がある場合は、次は短縮性収縮、最後に伸張性収縮という順番で筋収縮感の評価を行いましょう。


E)関節制御


関節制御は、できる限りゆっくりと最大の可動域で関節を動かすことができるかをチェックします。例えば、足関節の関節制御を評価する場合は、足関節をグルっと回して円を描くような動作を患者に自動で行ってもらい、動かしている最中に震えが現れないか、途中で動きが速くなってしまう場所はないか、などを確認することで、関節制御が可能なのかを評価することができます。


マッサージの様子


体性感覚の改善を促す3つのワーク


ここまで紹介してきた「評価法」はそのまま改善のワークとしても利用が可能なものとなりますが、体性感覚を向上させていくワークとして効果的なものを3つご紹介します。


1)セルフマッサージ


セルフマッサージは、筋緊張の緩和や血流改善を目的として行われている場合が多いかもしれませんが、触覚や圧覚を与えることで体性感覚の向上が期待できるのはもちろん、ボディイメージが明確化していくことで慢性疼痛や運動制御性を改善する効果も期待できます。


セカンドタッチのみにしか良い反応を示さない方には有効な改善法とは言えませんが、ライトタッチやディーププレッシャーに良い反応を示す場合は、セルフマッサージは体性感覚向上に有効な手段となります。


体性感覚の評価を行い、改善が必要とわかった部位に対して、フォームローラーやマッサージスティックといったツールを利用して、ライトタッチに特に良い反応を示す場合には軽めのマッサージ、ディーププレッシャーに反応する場合はグーッと押すようなマッサージを行います。


ディーププレッシャーを行う場合は、痛すぎず、気持ち良く感じる程度の強さで圧を加えます。痛く感じるほどの圧を加えてしまうと、過度な緊張を生んでしまい良い効果は期待できません。


また、体性感覚をより効果的に改善させていくためには、単に触覚刺激を入れ続けるよりも、触覚を識別する課題を与えたほうが触覚定位の能力が向上します(5)


つまり、ただマッサージをするだけよりも、今どんな感覚であるのか?というのを意識して感じてもらい、識別してもらうことで、触覚定位の能力は効果的に向上し、体性感覚の改善につながっていきます。


更に重要なポイントとして、体性感覚の向上や慢性疼痛の改善を目的としてセルフマッサージを行う場合は、セルフマッサージのみでワークを終えるのではなく、必ず「運動」を行うべきである、ということです。


感覚的に「痛みレベルが低下した」「不調が改善した」だけでよしとせず、その状態でしっかり身体を動かして「私はこの動きをしても痛くない or 不調が現れない」 という感覚を作ることで、記憶を強固なものにしていきます。


フォームローラーを使ったセルフストレッチ


2)筋収縮感/筋伸長感にフォーカスしたエクササイズ


深部感覚の評価によって筋収縮感・筋伸長感を感じない部位が見つかった場合、もしくは運動中、使っているはずの筋肉が収縮している感覚がないという場合や、本来働くべき筋肉がしっかり働かずに別の筋肉を使っている感じがある、といったケースでは、筋収縮感や筋伸長感にフォーカスしたエクササイズを行いましょう。


筋収縮感、筋伸長感が出ることで体性感覚の向上につながるとともに、運動中の筋出力の向上や、筋緊張の緩和、疼痛緩和も期待できます。


筋収縮感、筋伸長感のワークの流れは以下の通りです。



  1. 筋伸長感がないという部位に更にストレッチをかけて、それでも感覚がないのかを確かめます。

  2. 筋伸長感が出てきた場合は、その感覚にフォーカスしてもらいながらストレッチを継続します。

  3. 筋伸長感がない場合は、それ以上ストレッチを行うのはやめて、その部位の筋収縮感を感じてもらうエクササイズに切り替えます。


筋収縮感を感じてもらうためにまずは「等尺性収縮」のエクササイズを行います。関節が積極的に動くエクササイズでは、筋の収縮感を感じるのが難しくなることが多いです。


等尺性収縮のエクササイズ中に「今ここの筋肉を使っていることを感じますか?」と聞き、筋収縮を感じてもらうことにフォーカスしましょう。最初は感じなくても、何度か繰り返すことで筋収縮感は増していくはずです。


なかなか筋収縮感が出てこないという場合は、その部位を触って触覚の刺激をプラスしたり、少し抵抗を加えて収縮を強めたりして、筋収縮を感じられるまで行います。


これでも筋収縮感が出てこない場合は、他の感覚システム(=視覚や前庭覚)のワークを行って一次体性感覚野を活性してから、再度筋収縮感にフォーカスしたエクササイズを行うと、筋収縮を感じられるようになる場合があります。


筋収縮感が出てきたら、再びその部位に筋伸長を与えて、筋伸長を感じるようになったか再チェックします。筋収縮を感じられるようになると、それにともなって筋伸長感も上がっていきます。


筋収縮や筋伸長をしっかりと感じられるようになると、その筋肉が緊張しているのか、リラックスしているのか、という感覚が明確になるため、体性感覚の向上が期待できます。


筋収縮感/筋伸長感にフォーカスしたエクササイズ


3)脊椎の制御にフォーカスしたエクササイズ


様々な方向に背骨を動かすエクササイズを行うことで、身体中心座標の確立を狙っていきます。


背骨をしっかりコントロールして動かすことができるようになると、自分の中心線を脳が理解できるため、今自分の身体はどちら側に傾いているのかや、どちらの方向に動いているのかといった感覚がより明確になっていきます。


「体性感覚の向上」を目指す際、自分の身体の中心の感覚というのはどの部位のワークを行う上でも重要となるため、脊椎のコントロールにフォーカスしたエクササイズは必須となります。


脊椎の制御ができるようになってきたら、近位の関節である肩関節や股関節のエクササイズに進み、更に遠位の関節である膝や肘、手足のエクササイズに進んでいくことで、自分の身体の認識が内側から外側に向かって有効に広がっていき、体性感覚が効果的に向上してボディイメージが明確になっていきます。


脊椎の制御にフォーカスしたエクササイズ


まとめ


感覚神経系と運動神経系による動作の生成までのプロセスから、体性感覚の評価と改善法についてお伝えしました。体性感覚へのアプローチは、本記事でお伝えしたもの以外にも多数存在します。


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参考文献



  1. 後藤 淳, 感覚入力における姿勢変化, 関西理学療法, 2010, 10 巻, p. 5-14

  2. Gallagher I I. Philosophical conceptions of the self: implications for cognitive science. Trends Cogn Sci. 2000;4(1):14-21. doi:10.1016/s1364-6613(99)01417-5

  3. 金子 文成, 運動感覚機能の向上は運動機能の向上に結びつくか, バイオメカニズム学会誌, 2007, 31 巻, 4 号, p. 196-200

  4. Study channel. 「二点識別覚とその検査方法について」. https://www.study-channel.com/2015/10/two-point-discrimination.html, (参照 2022-06-10)

  5. Braun C, Schweizer R, Elbert T, Birbaumer N, Taub E. Differential activation in somatosensory cortex for different discrimination tasks. J Neurosci. 2000;20(1):446-450. doi:10.1523/JNEUROSCI.20-01-00446.2000


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