講義動画のキャプチャ画像
無料体験入学

50本以上のサンプル講義動画が無料で見放題!

講義動画のキャプチャ画像
無料体験入学

50本以上の動画が見放題!

スタティックストレッチとパフォーマンスの関係

「スタティックストレッチを行うとその後のパフォーマンスが低下する」という話を聞いたことがある方は多いかと思います。


2000年代前半から、スタティックストレッチがパフォーマンスに対してネガティブな影響を与えるという報告が多く発表され(1-6)、2010年以降あたりから運動指導者の間でも広まってきました。


しかし、改めてこれらの研究をみてみると、現場で行われるスタティックストレッチの使い方とは異なった方法で研究が行われていることがわかり、現時点では、明確な目的があればウォームアップにスタティックストレッチを実施するメリットも充分にあると認識されています。


本記事ではまず、スタティックストレッチ後のパフォーマンス低下を報告した研究に関する考察から、どのような形でスタティックストレッチを行うとパフォーマンスにネガティブな影響が起こるのかをお伝えします。


また、逆にどのような形であればウォームアップにスタティックストレッチを行ってもパフォーマンスに影響はないのか、さらには中長期的にスタティックストレッチを行うことで筋力アップや筋肥大の効果は期待できるのか、について解説いたします。


スタティックストレッチ後のパフォーマンス低下を報告する研究について


スタティックストレッチ後のパフォーマンスが低下する、という現象を報告している多くの研究では、以下のような研究デザインが使用されています。



  1. 筋力測定(ビフォー)

  2. スタティックストレッチ

  3. 筋力測定(アフター)


ビフォーとアフターの測定結果を比較すると、アフターの数値が低下していた、ということになります。


またこのパフォーマンス低下現象は筋力だけではなく、スプリントや垂直跳びでも報告されています。


これらの研究結果から、スタティックストレッチをウォームアップで行うことは避けるべきである、という考えが広まっていきました。


しかし、このパフォーマンス低下現象を報告している研究の実験手順は、実際のスポーツ現場では行われないような “非現実的な手順” であることが指摘されています。


Biodexを使った筋力測定の様子


研究のデザインと現場の乖離


現場から “非現実的な手順”であると指摘されているのは「ひとつの筋群を伸ばす時間が長すぎる」「スタティックストレッチの直後にパフォーマンス測定を行っている」の2点となります。


1−1)ひとつの筋群を伸ばす時間が長すぎる


1つ目は「ストレッチを行う時間の長さ」です。


スタティックストレッチ後のパフォーマンス低下を報告している研究の多くは、ひとつの筋群を2〜3分間伸ばし続けています。


しかし実際の現場で、ひとつの筋群を2分以上じっと静的にストレッチし続けるということはほとんどないかと思います。


このような指摘が増えたことから、「ではどれくらいの長さでスタティックストレッチを行うとパフォーマンスは低下し、逆にどれくらいの長さであればスタティックストレッチを行ってもパフォーマンスは低下しないのか」を調べる実験が行われるようになりました。


1−2)どれくらいの長さであればパフォーマンス低下は起こらないのか?


スタティックストレッチの伸長時間の長さとパフォーマンス低下の関係について調べた3つのレビュー論文(5,7,8)をみると、45〜60秒のスタティックストレッチであれば、パフォーマンスへのネガティブな影響はほとんどないことが報告されています。


Kayらのレビュー(8)では、60秒以上のスタティックストレッチによってパフォーマンスが低下したと報告されているため、ひとつの筋群に対してのスタティックストレッチを60秒未満で行うことによって、その後のパフォーマンス低下を引き起こすことなく、スタティックストレッチの効果を享受することができます。


2−1)スタティックストレッチの直後にパフォーマンス測定を行っている


2つ目の研究と現場の乖離は「スタティックストレッチの直後にパフォーマンス測定を行っている」という点です。


Behmらのレビュー(9)によれば、スタティックストレッチ後のパフォーマンス低下を報告している研究の「スタティックストレッチを行ってから筋力測定を行うまでの時間」の平均は、3.2分であったと報告されています。


実際の試合や現場を鑑みると、スタティックストレッチを行った約3分後に試合を行ったり、本番のパフォーマンスを行うということは、なかなか考えにくいかと思います。


また、運動や試合前に行うウォームアップを考えても、スタティックストレッチのみの実施でウォームアップを終えることはないかと思います。


これらの点を踏まえると研究で採用されていた手順と、実際の現場で行われるウォームアップや試合前の状況は異なるものであることがわかります。


2−2)スタティックストレッチ後に動的なウォームアップを行うことでネガティブな影響は消失する


実際に現場で行うような運動前のウォームアップに近いデザインで行った場合、スタティックストレッチがパフォーマンスに悪影響を及ぼすのかについて調べた5件の研究(10,11,12,13,14)をみると、うち4件の研究でスタティックストレッチ後に動的なウォームアップを行うことで、スタティックストレッチのネガティブな影響は消失する、と報告されています。


現場での考え方


スタティックストレッチを行ってから実際の運動まで10分以上の時間があく場合や、スタティックストレッチの後に動的なウォームアップを行う場合は、スタティックストレッチによるパフォーマンスへのネガティブな影響は起こらないと考えられます。


つまり、スタティックストレッチを行って関節可動域を広げたいなど目的が明確で、その目的を達成するためにスタティックストレッチが適しているという場合は、ウォームアップにスタティックストレッチを組み込んでも問題ないと結論づけられます。


また、たとえスタティックストレッチのネガティブな影響がパフォーマンスにあったとしても、その程度は「約5%」と報告されています。つまり、クライアントのレベルによって、例えば一般の方への運動指導の場合は、5%程度のパフォーマンス低下が起こったとしても大した問題ではない、という考え方もできます。


トップアスリートへの指導で5%のパフォーマンス低下は、それが勝負を分ける可能性は十分に考えられるため、クライアントのレベルや目的に合わせてスタティックストレッチを利用していくべきかと思われます。


スプリンターが走り出す様子


筋力・筋肥大・パフォーマンスへの中長期的な影響


スタティックストレッチのみを中長期的に継続して行った場合に、筋力向上や筋肥大、パフォーマンスアップといった効果の有無について調べた10件の研究(15〜24)をみると、うち9件の研究でポジティブもしくは変化はなかったという報告がされており、ネガティブな結果を報告しているのは1件のみでした。


Mizunoら(22)の研究では、スタティックストレッチの実施(腓腹筋30秒×4セット、週3回、8週間)によって筋肥大が発生するかについて調査が行われました。


結果、何もしなかったコントロール群と比較して、有意に筋厚が増えたと報告しています。


Mizunoらは考察として、リハビリプログラムでのスタティックストレッチの使用や、筋トレの実施が困難な状況にある場合(旅行など)にスタティックストレッチを行うことで、筋萎縮の軽減や最大筋力低下の軽減に役立つ可能性がある、ということを示唆しています。


研究の問題点


上記の研究結果はポジティブな報告ですが、問題点もあります。


スタティックストレッチによる筋力や筋肥大への影響について調べた研究の大半が、被験者としてトレーニング経験がない人や運動習慣がない人を対象としている、もしくは動物実験であるという点です。


すなわち、スタティックストレッチを行うことによって筋力が向上したりするというメリットは、全く運動をしていない人に限定して起きる可能性があるということです。


ウォームアップにおけるスタティックストレッチの扱い方に関する議論の変遷


1998年にKokkonenらがはじめてスタティックストレッチ直後のパフォーマンスへのマイナスの影響を報告したことをきっかけに、2010年〜2017年頃までは「運動前にスタティックストレッチをやってはいけない」もしくは「スタティックストレッチはパフォーマンスに悪影響を与える」と考えられてきました。


しかし2018年頃から「ただ安易に取り除けば良いわけではない」「目的によってはむしろ推奨される」という認識に変化しています。


Blazevich (2018) らによる研究(25)では、筋関連の怪我のリスクを軽減〜中程度減少させるという先行研究や、スタティックストレッチが直後のパフォーマンスを低下させなかったという研究結果を踏まえると、短時間のスタティックストレッチはウォームアップの一部として許可されるべき、あるいは推奨さえされるべきである、と結論づけられています。


ここまで、ウォームアップでスタティックストレッチを行うことによるパフォーマンスへの影響について改めて考察してみると、パフォーマンスにネガティブな影響を与えるのは使い方次第であり、限定的であることがわかります。


すなわち、クライアントのレベルや目的、トレーニング環境などを含めて検討し、明確な理由があればウォームアップでスタティックストレッチを実施してもよいと言えます。


ただし、目的達成のためのベストツールが本当にスタティックストレッチであるのか、という点は充分に検討すべきでしょう。関節可動域の拡大が目的であれば、フォームローリングの使用でも達成は可能です。スタティックストレッチに固執する必要はないということは忘れないようにしましょう。


まとめ


スタティックストレッチを行うことによるパフォーマンスへの影響について、このテーマに関しての研究デザインの問題点を確認しながらお伝えしました。


世の中に広まった「スタティックストレッチを行うとパフォーマンスが低下する」という考えは、現場では行われないような非現実的なデザインで行われた研究がもとになっており、目的が明確で、その目的を達成するためにスタティックストレッチの使用が一番効果的である場合には、ウォームアップでのスタティックストレッチの利用はむしろパフォーマンス向上の一助となると考えます。


本記事ではスタティックストレッチのパフォーマンスへの影響についてお伝えしましたが、AZCARE ACADEMYの講座の1つである「ストレッチングの科学と実践」では、ストレッチングに関する科学的知見を網羅的に学習することができ、実技パートではパートナーストレッチの具体的な方法について学ぶことができます。


ぜひ受講を検討していただき、あなたの現場指導に活かしていただければ幸いです。


また、アカデミーに関するご不明点については、毎月開催しているオンライン説明会や個別相談でご質問を承っております。https://academy.azcare.jp/consultation


AZCARE ACADEMY公式サイトはこちら↓


AZCARE ACADEMY – 身体の専門家のためのオンラインアカデミー


参考文献



  1. Kokkonen, J, Nelson, AG, and Cornwell, A. Acute Muscle Stretching Inhibits Maximal Strength Performance. Res Q Exerc Sport 69: 411– 415, 1998.

  2. Fowles, JR, Sale, DG, and MacDougall, JD. Reduced strength after passive stretch of the human plantarflexors. J Appl Physiol 89: 1179– 1188, 2000.

  3. Shrier, I. Does Stretching Improve Performance? Clin J Sport Med 14: 267–273, 2004.

  4. McHugh, MP and Cosgrave, CH. To stretch or not to stretch: the role of stretching in injury prevention and performance. Scand J Med Sci Sports 20: 169–81, 2010.

  5. Simic, L, Sarabon, N, and Markovic, G. Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review. Scand J Med Sci Sports 23: 131–148, 2013.

  6. Peck, E, Chomko, G, Gaz, D V, and Farrell, AM. The Effects of Stretching on Performance. Curr Sports Med Rep 13: 179–185, 2014.

  7. Behm, DG and Chaouachi, A. A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance. Eur J Appl Physiol 111: 2633–2651, 2011.

  8. Kay, AD and Blazevich, AJ. Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review. Med Sci Sports Exerc 44: 154–64, 2012.

  9. Behm, DG, Blazevich, AJ, Kay, AD, and McHugh, M. Acute effects of muscle stretching on physical performance, range of motion, and injury incidence in healthy active individuals: a systematic review. Appl Physiol Nutr Metab 41: 1–11, 2016.

  10. Fletcher, IM and Anness, R. The acute effects of combined static and dynamic stretch protocols on fifty-meter sprint performance in track-andfield athletes. J strength Cond Res 21: 784–7, 2007.

  11. Gelen, E. Acute Effects of Different Warm-Up Methods on Sprint, Slalom Dribbling, and Penalty Kick Performance in Soccer Players. J Strength Cond Res 24: 950–956, 2010.

  12. Loughran, M, Glasgow, P, Bleakley, C, and McVeigh, J. The effects of a combined static-dynamic stretching protocol on athletic performance in elite Gaelic footballers: A randomised controlled crossover trial. Phys Ther Sport 25: 47–54, 2017.

  13. Reid, JC, Greene, R, Young, JD, Hodgson, DD, Blazevich, AJ, and Behm, DG. The effects of different durations of static stretching within a comprehensive warm-up on voluntary and evoked contractile properties. Eur J Appl Physiol 118: 1427–1445, 2018

  14. Taylor, K-L, Sheppard, JM, Lee, H, and Plummer, N. Negative effect of static stretching restored when combined with a sport specific warm-up component. J Sci Med Sport 12: 657–61, 2009.

  15. Kokkonen, J, Nelson, AG, Eldredge, C, and Winchester, JB. Chronic static stretching improves exercise performance. Med Sci Sports Exerc 39: 1825–31,

  16. Kokkonen, J, Nelson, AG, Tarawhiti, T, Buckingham, P, and Winchester, JB. Early-phase resistance training strength gains in novice lifters are enhanced by doing static stretching. J Strength Cond Res 24: 502–6, 2010.

  17. Morton, SK, Whitehead, JR, Brinkert, RH, and Caine, DJ. Resistance Training vs. Static Stretching: Effects on Flexibility and Strength. J Strength Cond Res 25: 3391–3398, 2011.

  18. Simão, R, Lemos, A, Salles, B, Leite, T, Oliveira, É, Rhea, M, et al. The influence of strength, flexibility, and simultaneous training on flexibility and strength gains. J Strength Cond Res 25: 1333–1338, 2011.

  19. Nelson, AG, Kokkonen, J, Winchester, JB, Kalani, W, Peterson, K, Kenly, MS, et al. A 10-week stretching program increases strength in the contralateral muscle. J strength Cond Res 26: 832–6, 2012.

  20. Kamikawa, Y, Ikeda, S, Harada, K, Ohwatashi, A, and Yoshida, A. Passive Repetitive Stretching for a Short Duration within a Week Increases Myogenic Regulatory Factors and Myosin Heavy Chain mRNA in Rats’ Skeletal Muscles. Sci World J 2013: 1–6, 2013.

  21. Freitas, SR and Mil-Homens, P. Effect of 8-Week High-Intensity Stretching Training on Biceps Femoris Architecture. J Strength Cond Res 29: 1737–1740,

  22. Mizuno, T. Combined Effects of Static Stretching and Electrical Stimulation on Joint Range of Motion and Muscle Strength. J Strength Cond Res 33: 2694–2703, 2019.

  23. Barbosa, GM, Trajano, GS, Dantas, GAF, Silva, BR, and Vieira, WHB. Chronic Effects of Static and Dynamic Stretching on Hamstrings Eccentric Strength and Functional Performance: A Randomized Controlled Trial. J Strength Cond Res 34: 2031–2039, 2020.

  24. Nakao, S, Ikezoe, T, Nakamura, M, Umegaki, H, Fujita, K, Umehara, J, et al. Chronic Effects of a Static Stretching Program on Hamstring Strength. J Strength Cond Res 1, 2019.

  25. Blazevich, AJ, Gill, ND, Kvorning, T, Kay, AD, Goh, AG, Hilton, B, et al. No Effect of Muscle Stretching within a Full, Dynamic Warm-up on Athletic Performance. Med Sci Sports Exerc 50: 1258–1266, 2018.


学習システムのPCのイメージ画像
登録は3分で完了します!
いますぐ無料で体験入学しませんか?

入学後に利用いただく学習システムを利用して
50本以上のサンプル映像を視聴いただけます。
全サンプルを視聴完了後には「修了ミニテスト」も体験いただけます。
体験入学でしか視聴できない限定サンプルも公開中!

説明会で詳しく知りたい方はこちら